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そこで、先天性欠如歯の発生頻度を調査すると、全体では先天性欠如歯が1歯でもある場合は、全唇顎口蓋裂児221名中の127名に発現しており、頻度は 57.5%(127/221)であった。次に、先天性欠如歯の発生頻度を先天性欠如歯の発現部位で調べた結果は下表4のとおりである。

右側
総数265歯
左側
0 0 27 2 1 68 1 上顎 5 99 3 1 23 0 1
7 6 5 4 3 2 1 1 2 3 4 5 6 7
0 0 5 1 3 4 0 下顎 1 5 1 1 13 0 0
表4 唇顎口蓋裂児(163名)の型別頻度

さらに、唇顎口蓋裂型と先天性欠如歯の発現部位の一致率からも調査してみた結果が下表5、下図5である。

口唇口蓋
顎裂型別
人数 先欠歯を
有す人数
割合 歯数 顎裂部の
一致先欠歯
所有者数
顎裂部と
先欠歯部位の
一致率
左側唇顎裂
14 4 28.6 9 5 35.7
右側唇顎裂
7 3 42.5 3 2 28.6
両側唇顎裂
1 1 100 1
左側唇顎口蓋裂
81 57 70.4 93 51 63
右側唇顎口蓋裂
31 19 61.3 41 16 51.6
両側唇顎口蓋裂
51 36 70.6 104 28 54.9
口蓋裂
36 7 19.4 14
表5 唇顎口蓋裂型と先天性欠如歯の発現部位の一致率


図5 唇顎口蓋裂型と先天性欠如歯の発現部位の一致率




4)考察
今回、先天性欠如歯の統計調査を行った。調査対象は、いなみ矯正歯科に1981年の4月から2000年末までの20年間に初診来院した、口唇口蓋裂児221名である。これら221名の唇顎口蓋裂児の初診時平均年齢は8歳4ヶ月で、男女構成比率は57.5%:42.5%であった。

1:先天性欠如歯の発生頻度
 従来の健常児に関する先天性欠如歯の統計調査では、その発生頻度はほぼ1割未満となっている。しかし、口唇口蓋裂児に限った統計調査での、発生頻度は、概ね50から60%の極めて高頻度の結果となっている。今回の調査でも、口唇口蓋裂児221名中、先天性欠如歯を有する患児は、127名(57.5%)と高率に認められた。

2:唇顎口蓋裂児の型別頻度
 221名の唇顎口蓋裂児の型別頻度は、やはり唇顎口蓋裂が73.7%と圧倒的に多く、左右別の頻度は、高い順に、左側唇顎口蓋裂>両側唇顎口蓋裂>口蓋裂>右側唇顎口蓋裂>左側唇顎裂>右側唇顎裂>両側唇顎裂と従来の研究結果と同様であった。

3:先天性欠如歯の発現部位
 表―4に示す先天性欠如歯の部位別分布では、上顎左側側切歯部が99で37.4%、上顎右側側切歯部が68で25.7%、と実に上顎側切歯部で63.0%と高頻度で認められた。次いで、上顎右側第二小臼歯が27で10.2%、上顎左側第二小臼歯が23で8.7%に先天性欠如歯が認められた。また下顎歯列では、健常児にみられる発現部位に準じた先天性欠如歯の分布がみられた。

4:唇顎口蓋裂型と先天性欠如歯の発現部位の一致率
 唇顎口蓋裂では左側、両側、右側全ての裂型で、顎裂部と先欠歯部位の一致率は63%、54.9%%、51.6%と極めて高い確率を示した。このことは、唇顎口蓋裂児の咬合誘導を受け持つに当たって、治療方針・方法決定に不可欠な情報のひとつになると考えられる。セファロ所見や模型所見等の結果から、治療目標モデルを構築する際に先欠性欠如歯の発現の有無やその発現部位は非常に重要な意味を持つことになる。





5)おわりに
唇顎口蓋裂児の咬合誘導に際して、よく学際的治療(インターディシプリナリーアプローチ)の充実が必要といわれている。しかし、いくら理想的な治療方法であっても、患児の「こころ」を考慮しなければ何もならない。一人ひとりの子どもに合わせた等身大のタイムリーな『咬合誘導』を心掛ける必要がある。患児や保護者の望むQ.O.L.のどこまでを満たせ、共有出来るのか、また一方で、どのようにその限界を伝えていくことが出来るのか等といった問題に対する解答は、症例の困難さに応じて、また経験済みの疾患であるのか否か、医療チームのメンバーの治療技術と知識、そして意識によって、大きく左右される。これからも、これらについて咬合誘導研究会では有意義な討論を尽くしたい。

注:
本原稿の「唇顎口蓋裂児における先天性欠如歯の発生頻度」は2001年9月27日(木)に九州大学医歯薬キャンパス内のコラボ・ステーションに於いて開催された「第6回 咬合誘導研究会」のシンポジウム(テーマ「先天性欠如歯の臨床」)で講演した内容(演題名『唇顎口蓋裂児の咬合誘導の立場から』)の一部を抜粋した。





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