平成13年10月9日
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9:III級不正咬合の鑑別診断 --4

 調査結果-2 (セファログラムによる経年変化)のまとめ

5. 初診時・両装置撤去直後・咬合安定時期の3時点におけるセファログラムを用い、咬合安定時期の咬合状態が正常被蓋のものN群、反対被蓋のものをR群として、距離計測と角度計測を行なって、比較検討をしました。
 その結果、SNA、SNB、ANB、AO-BO、A-B plane、ODI、APDI等のデータが正常範囲に近づく程、反対被蓋改善後の安定性が高くなる傾向にありますが、特にL-1の軸傾斜、AO-BO, ODI, Gonial angle, に関しては、鑑別診断の際に有用な指標と考えられました。
 (N・R両群間比較のt検定結果 危険率:0.5%)


 また、予備調査の段階で、有意差のあった検定結果の項目の中に、本来、頭蓋顔面形態の垂直的関係の指標であるODIがあったことに注目してODIとAPDIの相互関係を調べると、APDIの値がそれほど大きくないにもかかわらず、ODIの値が小さいものの中に、R群が存在していることが判りました。
 そこで、新しい指標として、APDI をODIで割った数値、 KIX- indexを考えました。このKIX- indexの方が鑑別診断の際により有用な指標となりうるのかを調査しました。


KIX Index = APDI ÷ ODI

APDI とは Anteroposterior Dysplasia Indicator
ODI とは Overbite Depth Indicater (Dr.Y.H.Kim)

APDI とは Anteroposterior Dysplasia Indicator の略称で、Young.H.Kim 先生の提唱したものです。

ODI とは Overbite Depth Indicater  の略称です。

 新しい指標として、APDI をODIで割った数値、 KIX- indexを考えました

N群とR群間の K I X Index について調査をおこないました。

 その結果、上図の様に、N・R両群間の差の比較の t 検定をした結果、3時点全てで、N、R群間に、危険率:0.5 %で有意差が認められました。 このことにより、KIX-indexは初診時における骨格性の反対咬合の鑑別診断の際に有用な指標となると考えられました。

 経過観察中下顎の過成長が発現したために外科的処置を併用せざるを得なくなった3症例を用いて、指標 :KIX indexを経年的に調査しました。すると、今回調査した3症例とも初診時の、KIX- index の値は1.5前後で、早期治療で反対被蓋は改善されされにくく、将来後期治療や外科的矯正治療の対象となる割合が高いと推測されました。実際に、KIX- index の値は経年的に悪化しており、下顎の前方成長量も著しく反対被蓋も増加しました。さらに、下顎関節部を示すAr点の後下方への成長量は少なく、発達期の顎顔面構造の中で、下顎の前方への過成長を吸収できないことも示唆されました。
 KIX index は外科的処置が必要かどうかの判断に用いられ、通常は1.5を超えると外科的処置の必要性が高くなると考えられます。この式によって得られた値が1.5を超えて大きくなるということはつまり、APDIの値が大きくなり、ODIの値が小さくなるということですから、III級もしくはopenbite 傾向が次第に強くなっていくということにを示しているに他なりません。1.5という値は仮にAPDIが90でODIが60の時の値で、これはsevereなIII級でかつsevereなopenbite傾向を示す値です。



KIX index
    平均値:1.09 (Caucasian)
    1.13 (日本人)

 混合歯列前期において被蓋改善が得られず、経年的にKIX Indexの値が1.5から2に至る症例では、将来外科的矯正治療の対象となる割合が非常に高いと推測さるため、患児を含めた家族との間のラポールの形成に努め、インフォームドコンセントやセカンドオピニオンに配慮をする必要性が特にあると考えられます。